第5章 中学三年生
「…というワケデス」
「マジっスか」
あれから私達は特に気まずくなることもなく、虹村も家まで送ってくれたりして普通に過ごした。
後輩は色々と大変なことになったみたいだけど、私達は無事卒業の日を迎え、その日、虹村はアメリカへ行った。
元気で、とありきたりな言葉しか言えなかった。
でもそれで良かったと思う。
変に話せばまたあの頃の感情が湧き上がってきそうだったから。
「オレ全然気づかなかったっス…」
「あん時は青峰に追いつこう追いつこうって必死だったもんなー」
「でも青峰っちが知ってたのが腑に落ちないっス…」
確かに、黄瀬が私達の関係に気づかなかったのは意外だ。
敦や緑間は仕方ないとしても、あの青峰でさえ気づいていたというのに。
テツヤと赤司はまぁ普通に気づくだろう。
「まぁいいんじゃない。知ってても知らなくても特に関係無いし」
「そうかもしれないっスけど〜…」
それにもう別れているから関係無い。
アメリカにいる以上、会うことも無いだろうし。
「でもそっか…なまえさんってああいう人が好きなんスね」
「ああいう人?」
「熱血でいつも中心に立ってる人というか」
「んー、必ずそうとも言えないけど」
「えっ、そうなの?ていうかもしかして他にもいた?!」
「…さぁ」
「なまえさん!!」
事実、熱い男は嫌いじゃない。
けど、そういう人が好きなタイプ、っていうのは少し違う。
つまり私自身もわからない。
でも常識ある人がいいかもしれない。
今まで好きになった人の共通点といえばそこだった。
「ていうか、そういう黄瀬はどーなの」
「え?いや、オレはみんなのアイドルなんで!」
「バカじゃないの」
「ちょっ、冗談っスよ!冗談!」
黄瀬も無くはないんだけどなーワンコだよなー。
なんてふざけたことを言っていると、
だからオレは犬じゃないっス!
と怒られた。
人気者は大変だ。
毎日追いかけられ笑顔を振りまいて、私だったらパンクしてしまいそうだ。…ないけど。
まだ高1の黄瀬は、一体毎日何を思って生きているんだろう。
「今日はグラタンだよー」
「えっ、マジで!やったー!」
今日話したことを黄瀬はどう感じたんだろう。
そんなどうしようもない事を考えながら歩く5月の小道の道端には、小さくて黄色い花が咲いていた。