第5章 中学三年生
「終わっちまったな…」
「うん…」
「…送る」
花火も終わり、人がぞろぞろと帰っていく。
その中に私達も混ざり歩く。
今日は本当にあっという間だった。
とても楽しかった。
まだ帰りたくなかったけれど、仕方ない。
「虹村」
「ん?」
「甚兵衛…似合ってる」
「いっ、今?!今言うか?!」
「ずっと言おうと思ってたけど…タイミング無くって」
「お、おう…サンキュ…」
本当によく似合ってる。
カッコいいと思ったし実際少し見惚れてしまった。
「…それ言うならお前も…」
「え?」
「みょうじも…似合ってる…。つか、か、かわいい…」
「えっ!?」
「浴衣も、髪も、かわいい」
「う、うん、ありがとう…」
「おう」
まさか不意打ちで "かわいい" がくると思わなかった。
嬉しい気持ちと照れくさい気持ちが混ざって、とてもくすぐったい。
虹村は意外とハッキリ言うんだなぁ。
…って赤いし。
「ん」
ぶっきらぼうに出された手に、自分の手を絡める。
何度か繋いでようやく慣れた距離はとても近い。
大きな手が、少し汗ばんでいた。
あぁ、幸せだなぁ。
「じゃあ、また明日。部活で」
「うん、明日ね」
「…みょうじ」
振り向くと、真剣な表情の虹村がこちらを向いていた。
私は真っ直ぐにこちらを見るその目から反らせないでいた。
そして、気がつけば目の前にいた虹村の姿は見えなくなって、代わりに温もりが私の全身を包んでいた。
「…大好きだ」
そう掠れた声で囁かれた言葉は近い距離だからかハッキリと聞こえた。
全身が、顔が、一気に熱くなるのを感じた。
「ど、どうしたの、虹村…」
「別に、言いたくなっただけだ」
「…そ、そう…」
「ああ」
幸せ。
そう、幸せなんだ。
だけど何かが引っかかる。
こんな態度な虹村も、突然発せられた言葉も、おかしくはないのだけど、何かが引っかかる。
私は幸せを噛みしめつつ、その違和感に疑問を感じながら大きな背中を見送った。