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レッテル 2

第5章 悪魔の微笑み



「あ……。」

寝ている筈の彼と目があった。
眉を顰(ひそ)め、ジッとあたしを見ている。
あたしは彼から目を離せずにいた。
ただ、満杯になったコップから溢れだす水のように、透明な液体を目から溢れださせるあたし。
枕がどんどん濡れていく。
でも、彼は反らさない。

――なんで何も言わないの?

思わず口を開きそうになったがキュッと口を閉じた。
シンッと静まり返った部屋に、カチカチと時計の針の音が響く。
そして、勇人君の寝息。
刻々と時間が過ぎていく。

未だに合う目。
拭っても拭っても止まらない涙。
彼がどんどん霞んでゆく。

「………恐いんか?」

ようやく彼が口を開いた。
と、同時に起こす身体。

「来い。」

彼が手を差し伸べた。

「うん。」

その手にあたしはそっと触れた。
そして、彼の手で誘われる身体。
ギュッと彼が背中を押した。

「俺もこえーんだ…本当は。」

あたしの背中を擦る彼が小さく呟く。
彼の心音がトクトクと聞こえる。

「でもさ、誰かを守りてぇって思うとさ…胸が熱くなんだよ。」

「うん…。」

「前も言った通り、俺…仲間を守りてぇ…勿論、お前も。」

「うん…。」

「だから…心配すんな。ぜってぇ負けねぇから。」

彼の腕に力が入った。

"苦しい"

そんな感覚じゃなくて、どこか温かい感覚が身体を包み込む。




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