第4章 逃亡
別に怒ってはいない。
むしろ、この状況を楽しんでいる自分がいる。
焦る彼。
何度も必死に訴えて。
そんな姿が面白くて、怒ったフリをする。
――本当、意地悪だなぁ…あたしって。
彼に隠れてクスリと笑う。
お洒落な服を見てる最中も、靴を見てる間も、勇人君の服を見立ててる時も、彼は必死に訴えていた。
もうそろそろ良いだろう。
「怒ってないよ。」
空が夕焼けに満ちた頃、振り向いてあたしは言った。
パラパラと長い髪が揺れる。
ニコッと笑いながら彼の顔を見る。
「…………。」
荷物を両手に持った彼がなにも言わずにあたしから顔を反らした。
心なしか怒っているような気がする。
ドクドクドクドク―――
鼓動が早くなる。
急に不安が襲ってきた。
――嫌いになったの?
涙が込み上げてきた。
「ばーか、嘘だよ。」
彼はそう言うとこちらを向いて意地悪く笑った。
「バカッ。」
そう言って頬を膨らますあたし。
「あほくさ、付き合うって面倒くせぇな。」
勇人君がボソリと呟いた。