第20章 債務者と書いてカモと読む
満腹になったお腹。
あの後デザートまでたいらげた渡瀬は、平気な顔をしている。
大食漢なわりには肥っていない身体。
どんな胃の働きをしているのかと、春本は気にしていた。
「社長ごちそうさま。」
なぜか上機嫌の加奈恵。
鼻唄混じりでスキップしている。
もう一度言うが、渡瀬は彼女に"奢る"とは一言も言っていない。
勝手に彼女が渡瀬に払わせたのだ。
「社長すいません。」
加奈恵とは真逆で、申し訳なさそうに春本が言った。
「気にすんな。お前"は"奢るっていったんだから。」
「何それ?社長、あたしをいじめたいの?」
「……お前の頭を一回割ってみてぇ。」
そう言った渡瀬の顔がわずかに歪んでいる。
「結婚してくれたら、いいですよ?」
「消えろ。」
ベッタリと腕にまとわりついてくる加奈恵を、振り払いながら吐き出す。
加奈恵は渡瀬に好意を持っているらしい。
誰が見ても直ぐに分かる。
そして、渡瀬が彼女に興味がないということも。