第20章 債務者と書いてカモと読む
「今から伺いますから……違法?催促状届いてますよね?
その連絡が滞っているから、伺うんですよ…言葉の意味わかります?
聞こえてますか?
じゃあ、今から伺うんで……逃げないでくださいね。」
そう言って切る携帯電話。
勿論、仕事用の。
止まっていた白の大型乗用車は動き出す。
「なんで、催促状なんか出すんですか?
そのまま取り立てれば早いんじゃ――。」
助手席に座っている春本が尋ねる。
「タチの悪い客にはそうしてんだよ。
行きなり取り立てに行ったら騒ぎ出すからな。
それに、多重債務者には優しくしたり、情けをかけたフリをすんだ。
そうしたら、債務者(かも)の中に罪悪感が生まれる。
他社に払わせねぇようにすんだよ。
そこにまた漬け込む。
それが基本だ。」
「なんか……複雑ですね。」
「俺等は犯罪に近いことやってんだ、頭使わねー奴は終わりだ。」
信号は赤だ。
車がゆっくりと止まる。
犯罪だということは、春本も自覚している。
だけどやめられないのは、金のため?
それともプライド?
答えなど分かるはずもなく、ただ窓の外を眺めていた。