第20章 債務者と書いてカモと読む
「まいど。」
そして、やって来た買い取り業者数名。
キャップの下に笑顔を張り付けている。
「このテレビいくらになる?」
渡瀬は32インチ位の薄型テレビを指差した。
「あー、せいぜい二万が妥当でしょ。」
これまた土足で入ってきた業者が、ジロジロとテレビを見て言った。
「ケチだな。」
「いや、これでもけっこう甘くしてんスよ。だってこれメーカー中国産だし、あんま売れないんです。」
横目で見る渡瀬を前に、業者は困ったように言った。
「なら、ガキのゲーム機でもランドセルでも家具でも何でも"15万"になるだけ持っていけ。」
渡瀬が煙草を取りだしくわえた。
「え?…でも。」
業者の目は、今にも泣きそうな子供達へ。
彼にはわずかながらも良心がある。
「二度は言わねぇ、……持っていけ。」
煙草に火をつけた渡瀬の眼鏡の下の目がギラリと光る。
「わっ…わかりました。」
仕方なく頷いた怯えた業者は、次々とモノを部屋から運び出した。
「やめて!!それ僕の誕生日プレゼント――。」
「ちょっ…ボウズ――」
部屋にそぐわない、新品の最新小型ゲーム機に手をかけた業者を、弟が引き止める。
「お父さんとお母さんが一生懸命働いて弟に買ってくれた物なんだ!!大事な物だから止めて!!」
兄の方 も、服を引っ張って止めている。
「渡瀬さん……。」
困ったように業者の目が渡瀬に向いた。
「持っていけ。」
けれど、顔色ひとつ変えずに言葉を吐き出す渡瀬。
情などひとつもない。
冷たい目をしている。