第3章 もう一人の男~
「……嫌ッス、それだけは出来ねぇ。」
唸るような声で誠也君が言った。
「あ?」
高嶋の眉間にシワが寄った。
「アンタになんと言われようと渡さねぇ。それに…桜は物じゃねぇ。物を借りるような言い草、やめてくれねぇか?」
「ぁあッ!?」
ドガぁッ―――
拳が誠也君の頬に入った。
彼の顔が横を向いた。
「なんだ、その口の聞き方?いつからテメーは俺より偉くなったんだ?」
再び拳が上がった。
「ヒロ止めろッ!!」
バイクから降りた望田さん達が走ってきて高橋を止める。
「いつからそんな口聞けるようになったんだって聞いてんだよッ!!答えろッ!!」
望田さん達に腕を掴まれていても彼はまだ暴れている。
誠也君は横を向いたままなにも言おうとしない。
口角から血が垂れている。
けれど、それを拭わず、拳をずっと握っていた。