第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
「元々、俺は一人みてぇなもんなんだ。……迷惑だから、もう関わんな。」
進む足。
ドアノブに手をかける。
「…じゃあな。」
そう言って開いたドアの向こうには、
「あら、どうしたの?」
笑顔の棗の母、"遥香"がいた。
軽く湯気の上がるコーヒーカップとクッキーの入った器を乗せたトレイを手に持ち、キョトンとした顔をしている。
「……帰ります。」
小さく吐き出す声。
それが、どれだけ彼女等の好意を無駄にしているのか、亜久里には分からない。
いや、分かることが出来ないのだ。
誰かを思いやる気持ちなど、当の昔に無くしてしまったから。
「…え?もっとゆっくり――。」
「…ここは俺がいていい場所じゃない。」
――俺みたいなのは、ゴミに埋もれたあのボロ団地がお似合いだ。
孤独の中を生きる者が周りに溶け込もうとすれば、それに伴うだけの犠牲が付き物。
巻き込む前に消えるのが良策なのだ。