第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
棗の部屋。
綺麗に片付いているが、物が沢山ある。
例えば、身体を鍛える道具だとか。
正直、亜久里は驚いた。
それよりも目に入ったのは、飾られた家族写真。
幸せそうなのに、父親の顔の所だけが刃物で削られている。
「俺、親父が嫌いなんです。」
小さく吐き出される声。
苦しそうに顔が歪んでいた。
――父親が嫌い。
何となく分からないでもない。
自分も父親が大嫌いだったから。
家にも帰って来ずに女と遊び回り、仕事を何個も掛け持ちしていた母から金を奪い取る。
そんな父親のどこを好きになれというのだろうか。
クズに等しい。
「いつもヘラヘラ笑ってて、そんなところが腹が立つんです……俺は。」
棗は写真から目を反らした。
キュッと結ばれた口が僅かに震えている。