第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
ザァァアア―――
キィィ――
とうとう降りだした雨。
滑るようにバイクは大きな家の前で止まった。
そして、ゆっくりと車庫に入って行くバイク。
車庫も大きくて、亜久里は妙な嫉妬心を覚える。
自分が住んでいたのは、台所と畳の部屋しかないごみだらけのボロ団地。
母と妹がいて幸せだったけど、大きな家に憧れた事は何回もある。
たとえ大きくなくても、綺麗な家に家族四人で暮らしたかった。
他所の家庭みたいに、ただ毎日笑って過ごしたかった。
でももう、それさえも叶わない夢。
現実は理想よりもずっと、厳しくて冷たい。
まるで今降っている雨のように。