第3章 もう一人の男~
「総長ッ!!今日は姉御の退院祝いに派手に暴れましょーや!!」
バイクに跨がる嶋中さんが声を張り上げた。
夜空に彼の声が響き渡る。
「OBも来てんしテンション上がるぜぇ!!」
兵隊達が盛り上がっている。
「あぁ…。」
けれど、誠也君や先輩達の顔は、まるで今の夜空のように曇ったまま。
なんだかますます不安になる。
「総長がそんな顔してんじゃねぇッ!!族は派手に暴れてなんぼなんだよ!!」
ヴォンヴォン――ヴォンヴォンヴォンヴォンッ―――
望田さんは声を張り上げるとバイクを吹かした。
ギアとクラッチを器用に使いこなしている。
バイクの事はよくわからないけど、音が被っていない。
マフラーから奏でる音が綺麗に響いている。
なんだか音楽を聴いているような気分になった。
「綺麗だね。」
「望田さんはコールがうめぇんだ、…けど、バイクの事になると鬼みてーにうるせぇゾ。」
振り向いて彼が言った。
最後の方は望田さんに聞こえないように小声で。
「へぇ……。」
あたしは望田さんのバイクを見た。
よく見れば綺麗に整備されている。
バイクの前方に付けられた派手なロケットカウルも、三段シートもマフラーも何もかもが凄い。
素人のあたしが見てもわかるくらいだ。
――本当にこの人はバイクが好きなんだ。
あたしはそう思った。