第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
「どうぞ。」
棗から亜久里に手渡される温かい缶コーヒー。
バイクに乗って身体の芯まで冷えた棗は、直ぐに蓋を開けて飲んだ。
しかし、亜久里は手に持ったまま、自販機の隣のベンチに腰掛けている。
彼の喉がそれを欲していないのだ。
「なんか、あったんスか?」
先程から話しているのは棗ばかり。
亜久里は黙り込んでいる。
でも、それを棗は不快に思っていない。
むしろ話す事を楽しんでいるようで、
「平さん強いし、俺憧れてんスよ。」
その証拠に常に笑顔だ。
「………。」
亜久里は複雑な気持ちになっていた。
少年刑務所を出て、こういう風に接してくれた相手はいなかったから。
恐怖で顔をひきつらせ、ただ言いなりになっているだけ。
素で笑いかけて来る奴など一人もいなかった。
けれど目の前の少年は違う。
素で笑っているような、裏の無い笑顔で接してくれているような雰囲気を感じ取る事が出来る。
だからだろうか。
自然と口元が緩んでくるのは。