第16章 外れる鎖
「お前、ソレはわざとか?」
「は?」
声に反応して善司の顔が横を向いた。
すると、見える宗次郎の顔。
いつも見せないような顔をしている。
例えるなら"般若"。
いや、それ以上かも知れない。
けれど、そうなる気持ちも分かる。
何故なら、山代のオッサンは岩中の若頭のスーツで手を拭っていたのだ。
しかもあのスーツ、何気に高そうだ。
オーダーメイドかもしれない。
――あのオッサンバカだ。
つくづく思う。
「いや、わざとじゃない。近くに拭くものがなかっただけじゃ。」
「世間では、それを"わざと"と言うんだ。」
ボキッボキッ――
そう言った宗次郎は拳を鳴らしている。
殺る気だ。
「だから違うんじゃ!!…そもそもおどれが逃げてこんかったらよかったんじゃ!!おどれが悪いわ!!」
ガスッ――グシャッ――
完全に八つ当たりだ。
ブヨブヨの橋田の腹が、善司のスニーカーの裏に潰されている。
こればかりは橋田に同情する。
このままじゃ、俺が手を出す前に殺られるだろう。
でも、この光景がなんだか笑える。