第12章 真の家族
「あのさ…。」
向かいから聞こえてくる声。
勇人君だ。
でも、顔をあげる余裕も、笑顔でいる自信もない。
あたしはうつ伏せのまま黙っていた。
「余計なお世話かもしれないけどさ…言わせて。」
ギィ――
椅子を引く音か聞こえた。
「俺、誰かを好きになったことないし、ましてや付き合ったことないけどさ…兄貴が不安になる気持ちわかるんだ。こう言っちゃなんだけど、兄貴と姉御ってさ"美女と野獣"って感じじゃん?」
「あー、それ俺も思った。」
勇人君の言葉の後に清治君の声が聞こえてきた。
「兄貴ってイケメンじゃねぇし、どっちかというと"無愛想な厳ついアニキ"ってかんじなんだよな。それに反して、姉御は何て言うか"姫"って感じ…かな。いや、言いたいことはそうじゃなくて、とにかく兄貴は姉御が取られるんじゃないかってあせってんの。」
「取られるって…誰に?」
思わず顔を上げてしまった。
キョトンとした表情で、目の前の勇人君を見た。
「他の男だよ。」
「ありえないよ。」
勇人君の言葉に首を横に振った。