第12章 真の家族
食器を洗い終えた後、俺は着替えを持って脱衣所に向かった。
トボトボと歩いて着いた脱衣所の引き戸の前。
曇りガラスから明かりが漏れている。
「あ……。」
そっと開けると、洗面台の前にたったと目があった。
でも、直ぐに反らされる。
当たり前か。
最初に無視したのは自分。
勝手に怒っているのも自分。
そんな俺に彼女が話しかけるものか。
「………。」
そんなことを考えていると、黙っては俺の横を通り過ぎていく。
甘い果実のような香りを漂わせながら、ふんわりとしたハニーブラウン色の艶やかな髪が揺れている。
通り過ぎていく時間は短くそして切なくて、胸が締め付けられる。
もし、彼女と付き合えていなかったら、あの屋上で出会えていなかったら、きっとずっとこうだった。
片想いのまま、彼女は俺の気持ちも知らずに、ただ隣を通り過ぎていくだけ。
汚れたカッターシャツを脱ぎ捨てる。
中に着た服も、ズボンも、下着も全部。
ついでに、情けねぇこの性格も捨てられたらいいのによ。
情けなく笑いながら浴室に入った。