第2章 命の灯火
「さようなら。」
あたしがそういうと、彼は無邪気な笑顔で消えていった。
そして、また来た道を引き返す。
真っ白な世界だからどこが来た道なのか分からないけどとりあえず歩いた。
"おいで"
暫く歩いた頃、後ろから声がした。
――振り向くな、振り向くな、振り向くな。
自分自身に言い聞かせる。
振り向いたら戻れなくなる。
彼と二度と会えなくなる。
それは嫌だ。
あたしは走った。
"おいで"
更に声が増えた。
きっと死者達が、あたしを向こうの世界へ連れていこうとしているのだ。
世の中、いや、あの世もいい人達ばかりではない。
光輝く世界があると同時に、暗黒に満ちた世界もある。
人もまた同じ。
いい人もいれば悪い人もいる。
だから人を簡単に信じてはいけない。
それは分かっているけど、疑うのはやっぱり苦しい。
信じている方がずっとずっと幸せな気分になれる。
だけど……
今は彼に会うためにあなた達の声に耳を傾けることは出来ない。
ごめんなさい。
小さく呟いて、ひたすら走り続けた。