第2章 命の灯火
「こっちに来るんじゃねぇッ!!」
その人は振り向かずに叫んだ。
あたしは初対面でそんなこと言われるとは思わず、驚いてしまった。
「…わりぃ。けど、こっちに来るともう後戻りは出来ねぇんだ。」
まだ振り向かない。
顔は見えないけど、真剣なのは分かる。
「まだ、やりてぇことがあるんだろ?」
「……はい。」
あたしはその人の問いに小さく答えた。
「なら、来た道を引き返しな。じきに戻れる筈だ。ただし、後ろは振り向くな。ずっと前だけを見ろ。」
「……あの、あなたは……。」
「俺か?俺はもうダメなんだ。」
背中が震えている。
「……お名前何て言うんですか?」
恐る恐る尋ねた。
「上田…明斗(あきと)。」
上田さんは小さく答えた。
あ…もしかして――。
あたしは彼をジッとみた。
「そろそろ行きな。…あぁ、戻ったらさ……誠也によろしくな。」
そう言って振り向いた顔は、あの時みた写真のように笑顔に満ちていた。