第11章 漆黒の棺桶
人間、イライラする時や考え事をする時ほど煙草を吸う量が増える。
善司もその中の1人だ。
先程から足元に落ちる吸殻。
そこには吸殻の山が出来ている。
「煙草買ってこい。」
空になった煙草の箱をクシャリと潰し、近くにいた若衆の男に言った。
「またですか?」
驚いたように、男が善司を見ている。
「なんやと?」
ギラリと沈み行く太陽に反射して光る目。
「すっすいやせん。」
それが怖くて、男は逃げるように煙草を買いに走った。
「……なんだよこの車の数、邪魔だから退かせよ。」
それと交互するように聞こえてくる聞き覚えのある声。
「あ?」
そちらを向けば更に不機嫌になる善司の顔。
「だから退かせって言ってんだろオッサン。」
こちらも不機嫌そうな顔で誠也が立っていた。
「誰がオッサンじゃ!!いてこますゾ!!」
「協定。」
「――ッ!!ムカつくわ!!」
ニヤリと笑う誠也に、善司は怒りで地団駄を踏んだ。
誠也の協定と言うのは、以前加藤が言っていた
"他所のシマで暴力を行わない"
ということ。
西条会内での争いを避けるための掟(おきて)だ。
それを破ろうものなら、それなりの罰がある。
その事を知っている善司はうかつに手を出せない。
最悪な相手に知られたものだ。
我慢する他ない。