第11章 漆黒の棺桶
善司さんはバカっぽい人だけど、本当は恐い人なんだ。
授業中。
黒板に書かれている事をノートに写しながら、あたしは昨夜の事を思い出していた。
叫び声でベランダへ飛び出したあたし。
"わかったよ"
そう言って表へ出た彼。
庭には気絶した清治君がいて、それを探し回る善司さん。
一時は手を組んで仲良くしていたから忘れていた。
彼が極道だということを。
宗次郎さんのような優しさのない、真の悪の極道。
その人に手を出した清治君は、きっと見つかるまで探し続けられる。
それがどれ程深刻なのか、無知なあたしには分からない。
「はぁ……。」
口から重たいため息が吹き出る。
ペチッ――
すると額に当たるペン。
「何深刻な顔してんだよ。」
前に目を向ければ、不思議そうな表情をしている松崎君の顔が目に映った。
なんで毎度毎度この人は後ろを向くんだろう。
「べつに。」
そう思いながら言った。
「なんだよ、その"べつに"って。」
不機嫌そうに顔を歪める彼。
考え事をしている時にあまり話しかけられたくないと思うのはあたしだけだろうか。
キュッとシャーペンを握る手に力が入る。
「お前は俺に逆らっちゃいけねぇんだよ。」
ペチッ――
そう言ってまた、ペンで額を叩かれた。
横暴だ。
そう思うけど、いつもの事だから気にしない。
それが彼の性格なんだから。