第10章 喧嘩王子
トントントントン―――
再び流れる軽やかな音色。
ボーと彼の後ろ姿を眺めるあたし。
その間にも、出来ていく料理。
美味しそうな香りが鼻をくすぶる。
――お腹すいた……。
今にも鳴りそうなお腹を押さえ、彼に悟られないようにソファーに腰をおろす。
近くにあったぬいぐるみを抱きしめ、テレビに流れているニュース番組を眺めた。
「ただいま―、勇人様が帰ったぞ―。」
ドアの音と共に聞こえてくる勇人君の声。
バタバタとリビングに入ってきた。
「お帰り。」
テレビから目を離し、勇人君に目を向ける。
「うん。…あれ?今日は兄貴が飯作りよん?」
勇人君がランドセルを置いて、誠也君を見た。
「あぁ。」
振り向いた彼が頷く。
「ふーん。」
勇人君はそう言うと冷蔵庫を開け、牛乳を取り出した。
そして、コップに入れずにそのままパックの口に口をあて、がぶ飲みする。
勇人君用の牛乳だから関係ない。
「ふ――」
吐き出した息と共に拭う白いヒゲ。
バタン――
冷蔵庫に牛乳をしまった。