第10章 喧嘩王子
「あのさ。」
授業中。
椅子に跨がるように座った松崎君が口を開いた。
完全にこの人は授業を受ける気がないらしい。
机の上に無造作に置かれた教科書達が可哀想だ。
「なに?」
黒板から目を離さずノートに書き込むあたし。
そんなあたしを、彼はジッと見ている。
「…この前、頬に貼ってた湿布ってこけたんじゃねーで、やられたんだろ?乗り込んできた奴に。」
ズキンッ―――
いつもより真剣な表情で吐き出された言葉。
胸が痛んだ。
手から落ちるシャーペン。
そっと押さえる頬。
あいつの事は思い出したくない。
「どうなんだよ?」
問い詰めてくる彼。
どんどん迫ってくる。
「それは―――」
「松崎!!」
小さく口を開くと、突然聞こえてきた怒声に遮られる。
バコッ―――
「いてッ!!」
彼の頭に当たる黒板消し。
チョークの煙を被っている。
「なにすんだッ!!」
叫ぶ松崎君。
シュッ―――
投げ返す黒板消し。
ドンッ―――
でも軽く避けられて、空しく黒板に当たる。