第8章 チョメチョメ泥棒
ゾクッ―――
その瞬間後ろから感じる視線。
不気味な黒いオーラ。
身を震わすような寒気。
幽霊ですか?
いえ違います。
あたしは汗をたらしながらゆっくりと振り向く。
――きゃあぁぁああ!!
心の中で悲鳴をあげてしまった。
何故なら目の前に般若のお化けがいるのだ。
「たーくぅー……。」
低く唸るような声。
大量のシワがよる額に眉間。
鬼のような目。
剥き出しになった牙。
間違いなくあれは――
「何もしてねぇよ、誠也。」
笑いながら立ち上がる藤崎先輩。
何だか今の状況を楽しんでいるようだ。
「まぁまぁ、誠也ちゃん落ち着いて。これで汗拭きなよ。」
「………あぁ。」
渡された布で顔を拭く誠也君。
「お前ハンカチなんか持ってたっけ?」
「持つわけねーよな。」
「だな。」
彼の横でヒソヒソ話している先輩達。
「さっき拾ったんだよ。」
そう言って笑う三善先輩。
「………。」
布を一回広げ、黙ってドアまで歩く彼。
さっきと変わらない形相で振り向いた彼が手招きしている。
口から異様な煙を吐き出しながら。
「え?俺?」
自身を指差す三善先輩。
「……。」
うなずく彼。
「なんだろう。」
そう言って呑気に出ていった先輩は、
「ぎゃあぁぁああ!!ごめんね、ごめん誠也ちゃん!!」
物凄い音と共に地獄を見た。