第8章 白い人[アッシュ]
『ごめんなさい、
変なこと聞いてしまって、
気持ち悪かったですよね…;;』
彼女は急に態度を変えた私を見て
こんなことを思ってしまっていました。
私は慌てて
「いえ、!!!
私、あると思いますよ?
そういう恋だって。」
と言いました。
すると、彼女はにこりと笑って
ありがとうございます。
と言いました。
顔が赤いのが自分でも分かりました。
**
彼女はそれから
自分のポストに
宛名の分からない手紙を
書くようになりました。
"拝啓
私は今、パン屋で働いています。
あなたに会いたい。"
彼女がどうして
会ったこともない男が好きなのか
それが誰なのか分かりませんけど、
多分、そのまま手紙が入っていると
悲しむと思ったので
私がこっそり返事を書くことにしました。
そして、ポストへ。
"初めまして。
私もあなたに会いたい。
触れて抱き締めたい。"
そう書きました。
私の本心です。
手紙を出した次の日
彼女は必ずポストへやってきます。
けれど、
いつも、手紙をみると少し落ち込んだ様子に
なるんです。
別人が書いたものだと
気づいてしまっているのでしょうか…。
**
春のはじめごろから
始まった
私たちの文通も
夏を迎えました。
すこしの暑さを感じます。
彼女のパン屋は
中心街でも有名になり
沢山の客が訪れていました。
愚痴もこぼさず
せっせと働く彼女は
強くたくましいものです。
しかし、
客足が増えた喜びとは裏腹に
彼女の体はボロボロになっていきました。
そんな、ある日。
彼女は
いつもの場所へ、
ジャムやらリンゴやら、
少し足りなくなったものを
調達しに行きました。
ロンドンの中心から
少し離れた場所です。
私はずっと
彼女を見ていました。