【リヴァイ】 Frozen 〜 Let It Go 〜
第4章 For the First Time
ジャンは物心ついた頃から、母親の“一番”が自分ではないことを知っていた。
王室に仕える乳母は、我が子よりも先に主君の子どもに乳を与える。
主君の子どもが泣いていれば、我が子が泣いていようと、先にあやす。
かすかに覚えているのは、幼かったころ、自分はいつも母の背中におぶわれていたということ。
そして、母の腕の中にはいつも、真っ白な肌をした女の子がいたということ。
ジャンが歩くようになってからは城に連れていってもらえなくなったが、王女が熱を出したと連絡を受ければ、それが真夜中でも母は寝間着のまま飛び出していった。
「遅かったじゃないか、ジャンボ」
家に帰ると、エプロンをかけた母親が待ち構えていたようにジャンの腕を引っ張った。
「なんだよっ」
「いいから、こっちへおいで。体を拭くんだよ!」
「はあ?」
「顔もこんなに汚して・・・ほら、服を脱ぎな」
帰ってきたばかりだというのに、いきなり服をはぎとられる。
そして、固く絞ったタオルでゴシゴシと手足を拭かれた。
「なにすんだよ!」
「何って、これからお城に行くんだ。汚れたままじゃ連れていけないだろ」
「城?!」
ジャンは我が耳を疑った。
城、と言ったのか?
いつの頃からか、門を固く閉ざすようになった、あの要塞に行く?
「いやだ!」
「こら、ジャンボ!」
手足をばたつかせて逃げようとする息子を、力いっぱい押え付けるキルシュタイン夫人。
本当は嫌がるジャンを無理に城へ連れて行くのは、彼女にとっても気の進まないことではあった。