【リヴァイ】 Frozen 〜 Let It Go 〜
第4章 For the First Time
「リヴァイ様、窓枠を触ったら手が汚れますよ」
「・・・なら、掃除すればいい・・・」
掃除は嫌いじゃない。
自分でやれば“宝物”を捨てられることもない。
誰かを傷つけることが・・・ないんだ。
それに、空気を入れ替えるために窓を開ければ、ほんの一瞬だけ外の世界に触れられる。
毎日溜まる埃を掃き集め、棚を磨き、“宝物”を一つずつ整理する。
そうしているうちに、時間はすぐに経ってくれる。
綺麗になれば、気持ちも良い。
埃の中に埋もれてしまったら、自分は城のあちこちに飾られている絵や石像と変わらないだろう。
部屋を掃除するということは、リヴァイの存在証明の一つ。
だからいつしか無意識のうちに指でそこら中をなぞり、埃が落ちていないか確かめるようになっていた。
「あの子は・・・どうしてる?」
王の部屋まで続く階段を歩きながら、ふと前を歩くキルシュタイン夫人に声をかけた。
「レオノア様のことですか?」
「いつもなら中庭で遊んでる時間だけど」
「今は“お仕置き”として、絵画の間で反省していただいています」
「絵画の間・・・?」
そこは歴代の王の肖像画や、著名な絵描きの絵画が飾られた部屋。
しかし、リアルな人間の絵が怖いと言って、レオノアが近づきたがらない場所だ。
「ジャンとレオノア様が、らせん階段の手すりを滑り台にして、大事な鎧を壊してしまったのです。だから、反省していただいてます」
「ああ、あの踊り場に飾ってある・・・」
「王家に代々伝わる大事な品なのに、傷でもつけたらどうするおつもりでしょう! まったく、ジャンときたらロクな遊びを教えないんだから」
「・・・別に父上は怒らないと思うけど」
「ええ、国王様は笑っていらっしゃいました。でも、この私が許しません」
キルシュタイン夫人はふくよかな体をのけぞらせ、鼻息を荒くした。
「レオノア様には立派なレディになっていただかなければいけません。この国の王女なのですから」
「・・・レオノアは・・・レオノアのままでいいよ・・・」
今ごろ、絵に怯えて泣いているかもしれない。
あの子にはいつも笑っていて欲しいのに・・・
ため息とともに吐いた呟きは、キルシュタイン夫人の耳には届かない。
そして目の前には、国王の書斎のドアがあった。