【リヴァイ】 Frozen 〜 Let It Go 〜
第1章 Vuelie 〜語り継がれる愛〜
「おーい、エレン、ミカサ! 大丈夫かぁ?」
そんな二人のもとに、一人の男が酒の臭いをさせながらやってくる。
するとエレンは嫌そうに顔を歪めた。
「酒くさ! ハンネスさん、また酒を飲んでいるのかよ! 仕事中だろ」
「この寒さだ。体を温める飲み物の中に、たまたま酒が混じっていたことは些細な問題にすぎねぇ」
ハンネスは豪快に笑いながら、エレンの髪をグシャっと撫でた。
両親のいないエレンとミカサにとって、ハンネスは父親代わりのようなもの。
エレンの父と親交があったという、ただそれだけで15歳を迎えるまでは許されないこの仕事に、見習いとして二人を連れてきてくれていた。
「酔っ払って、足を滑らせて氷の下の湖に落ちたらどうするんだよ!」
「ああ、そりゃ死ぬなぁ」
白く、酒臭い息を吐きながら、一応反省したような顔をしてみせる。
そんな暢気なハンネスの態度に、エレンはさらに目を吊り上げた。
「死ぬとか、簡単に言うなよ!」
エレンにとって、その言葉は受け入れがたい。
特にハンネスの口からは一番聞きたくない言葉だった。
小さな脳裏に蘇る、父との最後の記憶。
凍った林の中で泣きじゃくるエレンの腕を引っ張り、何かを叫んでいた。
狂ったように、そして、悲しそうに。
あまりに早すぎる息子との別れを、嘆いていた。
それからの記憶はない。
それからの自分には、ミカサしかいなかった。
だから、大事な人を失うのはもう嫌だ。
ある日、突然消えてしまった父のように・・・
「おう・・・ごめんな、エレン」
ハンネスは、目に涙を滲ませているエレンに気づき、申し訳なさそうな目をした。
エレンの父グリシャの身に起こった運命・・・さらに遡れば、エレンは顔も覚えていないだろう母カルラの死。
この世界で唯一、イェーガー家に起こったことの全てを見届けた男にとって、エレンを見守るというのは義務というより使命に近かった。
「俺が悪かった」
「・・・・・・・・・・・・」
酒を懐にしまい、両頬を叩いて酔いを醒ます。
そして赤くなっているエレンの鼻先を、指で弾いた。
「行こう。夜明け前に氷を切り出しちまわないとな」
「うん」
逞しい山男に、少年と少女。
三人の頭上には、天空に舞うオーロラが輝いていた。