第1章 手乗り紳士(柳生比呂士)
泣いていることを誤魔化そうと急いで手で涙を拭う。
だけど止めどなく溢れてくる涙は止められなかった。
柳生くん、今どんな顔してるんだろう。
いきなり泣き出して、変な奴だって思ったかな…
こんな状況なのにやはり私は
柳生くんのことばかり考えてしまう。
だって好きなんだもん。仕方ないじゃん。
次の瞬間、背後からふわりと誰かに抱き締められた。
『すみません…好きな人を泣かせてしまうなんて…
私は最低ですね』
私がよく知っている声。
聞くとホッとして落ち着く声。
大好きな人の声。
それは紛れもなく柳生くんの声だった。
『や、柳生くん…!?元に戻ったの!?』
『ええ、泣いているさんを慰めたい、
そう思ったら戻ることが出来ました。』
ふわりと優しく微笑む柳生くん。
その笑顔を見ると涙も引っ込んでしまった。
『ていうか…さっきの言葉…』
好きな人…って言ったよね…
さっきの柔らかな笑顔とは一変して
柳生くんは真剣な顔つきになった。
『今までずっとあなたに言えなかったことがあります。
聞いてもらえますか?』
『は…はい。』
柳生くんの真剣な雰囲気に圧倒されて、
つい敬語になってしまった。
『私は…あなたのことが好きです。』
『え…?う、嘘だ!!嘘嘘!!柳生くんてば、冗談きつい!』
『嘘ではありません!!
ずっと前からあなたのことが気になっていたのですが…
告白するとあなたが困ると思い、言い出せませんでした。』
『ほ、本当に…!?』
『本当です。返事は…聞かせてもらえますか…?』
そんなの…YESに決まってる。
嬉しい…好きだと言ってくれたことももちろんだが、
柳生くんが私と同じ事を考えてくれていたことが一番嬉しかった。
『う…嬉しい…私も大好きです!!』
私は柳生くんにぎゅっと抱きついた。
あまりの嬉しさに軽く興奮状態になってしまった。
『さん…!!ありがとうございます…
大切にしますから。』
そっと背中に回された柳生くんの腕はやはりとても優しかった。