第1章 手乗り紳士(柳生比呂士)
『未だに信じられないよ…
柳生くんがこんな事になっちゃったなんて。』
『私もです…元に戻る方法もわかりませんし…』
私はこんな非常事態に不謹慎な事を考えてしまった。
柳生くんがこのまま元に戻らなかったらいいな、と。
そしたらずっと二人でこんな風にお喋り出来るのに。
私が柳生くんの事を好きになったのは
いつからだっただろうか。
いつだったかは覚えていないが、
好きになった理由は今でもハッキリ覚えている。
柳生くんが紳士的なのは学校内でも有名で、
初めて同じクラスになってそれがわかった。
柳生くんは誰にでも分け隔てなく優しくて、
こんな私にも優しくしてくれた。
ただそれだけのことなんだけど、とても嬉しかった。
柳生くんのそんな優しいところが、私は大好きだ。
でも、好きなんて言えない。
優しい柳生くんはきっと困ってしまう。
普段優しくしてもらってる分、
柳生くんに困った顔をさせたくない。
『さん…?どうかしたんですか?』
『え?な、なんでもない!!なんでもないよ!!』
柳生くんがテーブルの上から心配そうに私を見上げる。
そんな顔しないで…お願いだから。
私は柳生くんのそんな顔見たくないよ…
『さん。』
『な、なに…?』
『私の事を見つけてくれたのが、さんで良かった。』
一瞬耳を疑った、柳生くんが言った言葉。
---見つけてくれたのが、私で良かった、って…
なに、それ自惚れてもいいの?私。
それとも柳生くんは優しいから、
いつも通り優しい言葉をかけてくれたの?
『もう、わかんないよ…!!』
頭の中でモヤモヤしていたものが一気に爆発した。
気が付くと私の頬には涙が伝っていた。
『さんッ・・・!?』
柳生くんがオロオロ慌てだす。
私は泣き顔を柳生くんに見られたくなくて、
思わず背を向けた。
『ご、ごめん…なんでもないから…』