第8章 ヒーロー//氷室夢
翌週。
部活帰りに最寄駅の近くで、聞き覚えがある男女の声が聞こえる。
「今日こそぜってー来い!」
「い、嫌ですってば…」
先週見た光景と、全く同じだった。場所が、明るい道になったため、男女の顔がクッキリ見える。
前回と同じように、男は女性の腕を掴んで離そうとしない。
通行人は面倒に巻き込まれたくないと、見て見ぬフリをする。
またあの男…
ため息をつき、2人に近づく。
「…懲りない男だね」
女性は大きな瞳に涙を溜めて、今にも零れ落ちそうだ。
「あぁ?!…ってまたお前かよ!邪魔すんじゃねーよ女みたいな顔しやがって!ボコボコにしてやる!」
男は女性の腕を離すと、俺に向かって殴りかかる。
俺は男の拳を避け、腕を掴んで後ろで捻り上げた。
「いでででっ…」
「女みたいな顔でも、お前に負けるとは思えないね。もうこの女性につきまとうのはやめろ。このまま警察に突き出してもいいんだよ」
「ひぃっ」
腕を離してやると、男は女性を置いて一目散に逃げ出した。
「…大丈夫ですか?たちの悪い男に目をつけられましたね」
俺は女性に近づき、優しく話しかける。
すると、彼女は何も言わずに俯き、両手で顔を隠す。
…泣いている…。
「ほんとに…あっ…ありがとうございます…」
道端で女性を泣かせる趣味はない。
女性を支えながら、近くの公園に誘導する。
近くのベンチに腰掛け、彼女の背中を摩りながら、女性が落ち着くのを待った。
「ごめんなさい、迷惑かけて…」
落ち着いたのか、ゆっくりと話し出す。
近くの自販機でコーヒーを二本買い、彼女に一本渡す。
「えっ…すみません…ありがとうございます」
「落ち着きました?」
女性は深呼吸をし、「はい…」と小さく呟く。
なおも目は赤いままだ。
「偶然、二度目も出くわすなんて思いませんでしたよ」
「ほんとにご迷惑おかけして、すみません」
申し訳なさそうに謝る女性。
「なんで貴女が謝るんですか。悪いのはあの男でしょ。あれからちゃんと明るい道を歩いてたんですよね」
「はい…。待ち伏せ、されてたみたいで」