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黒子のバスケ夢 短編集(一章完結)

第8章 ヒーロー//氷室夢


「なー!いーじゃねぇか、ちょっとくらい付き合えよ!」



「は…離してくださいっ…」



暗い夜道、部活の帰りに男女のやり取りが聞こえた。



どうやら、ナンパした男が無理やり女性を連れて行こうとしているらしい。それを女性は必死に拒否していた。




見て見ぬフリももちろん出来たが、あまりにしつこい男の態度に苛立ちを覚え、ありがた迷惑かもしれないが、止めに入る。





「ねぇ、君」




突然話しかけられた男は、「あぁ⁈」と鋭い眼差しで振り返る。
女性は怯えた表情で、見ず知らずの俺に必死に助けを求める。




「嫌がってるんだから、止めてやった方がいいんじゃないか?」


「あ?!てめーには関係ねーだろうが!」


「嫌だって言ってるじゃないですかっ…痛いっ…もう離して…」




乱暴に女性の腕を掴む男の手を払いのけ、女性との間に割り込む。





「しつこい男は嫌われるよ?」



「てめー…覚えとけよっ…」




チッと舌打ちし、男は去っていった。
女性は俺の後ろで、男が完全に姿を消すのを見届けると、



「…ありがとうございます」



と言って深々と頭を下げる。



「いいえ、大丈夫ですか?」



「はい。大丈夫です」



先程まで怯えた表情をしていた女性は、安心したのか少し笑顔を見せる。
掴まれた腕をさすりながら、「本当にありがとうございました」とまた再び頭を下げる。



「ここの道暗いですし人通りも少ないですから、女性が一人で歩いていたら危ないですよ」



「そうですね…この道だと駅から近いので、横着してしまいました。これからは明るい道を歩こうと思います」




「そうですね、それがいいと思います」




じゃぁ気をつけてくださいね、と俺は帰路に戻る。




後ろから「ありがとうございました」と声が聞こえる。

律儀な女性だな。

自宅に帰る途中だったなら、俺の寮と近いのかもしれないな。






そんなことを考えながら、自分の部屋に着いた。

今日は疲れたから、早く寝よう。

そう思い、手早く風呂に入りベッドに潜り込んだ。
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