第3章 出会い 〜東堂編〜
写真を撮りにきたのはいいけど、東堂君がなんというか……。
「あー! いかん、いかんよ宮坂さん! その角度よりももっと……そう! この角度の方が俺がより美しく映るはずだ!!」
予想以上にナルシストで面倒臭かった。
(よし、さっさと撮影を切り上げて帰ろう)
自転車競技部を紹介するには充分なくらいの写真を撮った。何より、あまり東堂君の練習時間を割きたくないというのが本音だったりもする。
「……む、どうしたのだ? ボーッとしているぞ」
怪訝そうに眉をひそめる姿もお美しい東堂君。
「まさかこの美形に見惚れたか? まあ、無理もない! 何せ俺は「惚れてないから大丈夫だよー」」
長くなりそうだからわざと彼の言葉を遮る。
「ほんと、荒北といい東堂君といい、自転車競技部は面白い人が集まるんだね!」
「面白い、か?」
自分の面白さをどうやらわかっていない様子の東堂君。この人はなんていうか、自分のことをあまりわかってない人なのか?
「あ……」
思わずシャッターを押していた。
「ななな、何を撮ったんだ?! 今俺、ポーズ決めてないぞ?!」
私は小さく笑って東堂君にデジタルカメラの画面を見せる。
「ほら、桜の花びらと東堂君……良い感じでしょ」
ちょうど東堂の周りに桜の花びらが散っていたその一瞬。私の手は自然とシャッターを押していたんだ。
「確かに、この写真もなかなかいいな」
その時、ぐらっと視界が揺れる。
(……っ! これは……)
倒れそうになる体を東堂君が支えてくれる。
頭の痛みにそっと目を閉じると、ここではないどこかの景色が映る。
私は後部座席に座っていて、隣にはお兄ちゃん、前の席にお母さんとお父さんの姿が。
『もうこっちに来てから3年になるわね』
『母さんはまだ関西弁に慣れないらしいぞー?』
『ええー? もう俺も喋れるようになってるし! お前もだよな、葵』
『うん!』
その時、私たちを大きな衝撃が襲った。体のあちこちを車内にぶつけて……。
「宮坂さん!!」
「!」
目を開くと、目の前には東堂君が。
「大丈夫か? 突然フラついたものだから焦ったぞ」
「仕事のし過ぎかなー? まあ、ありがとね! 東堂君」
何故、あの時の記憶が東堂君を見て思い出されたのか。