第12章 本当の気持ちを
箱根学園のみんなが己のすべてを懸け、自転車競技に勤しんでいる間、私は父の元へ向かった。
(あの日の事故から壊れた家族の絆を……。父と私の間のすれ違いを)
突然の訪問なのはわかっている。だから、父が家にいないのも覚悟の上だ。
必死に頑張っている彼らを見て、私も頑張ろうと思った。真剣に自分に向き合いたいと思った。そして、東堂のことをとてつもなく愛おしいと思った。そしたら、もう止まってなんていられなかったんだ。
「……やっぱりいないよね」
父の住所の家に来てみたが、留守みたいだ。おそらく、夜まで帰ってこないだろう。
(いや、夜に帰ってきてくれたらむしろラッキーだよね。会社に泊まり込みとかされたらたまったもんじゃない)
夜になるまで適当なファミレスで時間をつぶしていた。スマートホンを使って自転車競技の経過を見届けながら。
夜になってから、私は父の家の玄関の前で待っていた。これが冬だったら、凍死しているんじゃないかと思う。
なにも考えず、心を無にして夜の星空を見上げる。
「葵か!?」
父の声にそっと伏せていた目を上げる。
確かに、私の視界に入っているのは仕事終わりの父の姿だった。
「父さん……」
「来るなんて聞いていなかったぞ!? とりあえず、中に入りなさい!」
家に入れられ、来客用のいすに座らされる。向かいに座る父の顔は困惑しており、私がなぜここに来たのか見当もつかないような顔をしている。
「……それで、どうしたんだ?」
改めて問われると、どうしてここに来たのかって答えづらくなってきてしまう。
(いや、言うんだ……どんなに言葉が拙くたって、父さんはわかってくれる)
「あの日の事故以来、私の父さんには深い溝ができて、寂しかった……」
「!」
「父さんは私に手をあげたことをとても後悔してるし、気にしてるし、恐れてもいる。当時の私は確かに怖かったけど、それはしょうがないことだったし……それよりも、捨てられたんじゃないかって思って、怖かった」
「そんなこと…・・!」
「だから良い子にならなきゃって! それが祖母の願いでもあったから! だから、今まで頑張ってきた!」
感情が昂ぶり、涙があふれてくる。
「でも、やっぱり……父さんと仲直りしたいよ……」