第12章 本当の気持ちを
どれほど待っただろう。携帯を片手に速報を受けながら、私はただ山岳リザルトで待つ。
その時、携帯が手の中で振動し、私はあわてて携帯を耳に当てる。
『東堂君が通過したよ!』
ゴールより離れた場所で観戦している天宮さんから連絡を受ける。
「ほんと!?」
『えぇ! 少し元気がなさそうなのが気になったけど、トップを独走してる!』
その言葉を聞いた瞬間、胸が高ぶる。
(でも、どうして元気がないの。東堂、目立つのが好きでしょ)
その時、東堂のライバルの存在……巻島さんのことを思い出す。
(待ってるの? 巻島さんを)
さきほど、総北の落車事故の話を聞いた。もしかして、そのことが関係しているのだろうか?
「東堂……」
確かにつらいことかもしれない。今まで競い合ってきた仲間がいないことは。それでも、前に進まなきゃ。貴方は誇り高き箱根学園のエースクライマーなんだから……!
(私は、全力で走っている東堂を見たい! 全てを絞り出すような、限界頂点で走る東堂の姿を!)
その時、また着信音がする。
『もしもし!? 東堂君を追ってすごい速い人が向かったよ!』
「!?」
『なんか、玉虫色の髪の毛で……すごいフラフラなの! 登時、自転車がぐらぐら揺れてるの! なのに、すごく速い!』
(それって、もしかして……)
心臓が苦しいほど高鳴る。当人でもないくせに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
私は自分の腕で自分の体を抱きしめていた。
どうか、最高のレースを……!!
「おい! 先頭が来たぞ!!」
誰かが叫んだ。
誰もが身を乗り出し、先頭を見ようとする。どの学校の声援化もわからない、ただただ叫び声がこだまする。
私も身を乗り出し、皆と同じ方向を向いた。
「東堂!!」
そこには、二人のクライマーの姿が在った。
一人は黒髪をなびかせ、美しいフォームで駆け上る。
一人は玉虫色の髪に、車体ごと左右に大きく揺り動かしながら駆け上る。
だが、二人とも速さは全く同じだ。
(これが、東堂の念願の……!)
IHの山岳リザルトで、ライバルと1位争い……。
そして、その夢は東堂が1位になることによって完成する。
「尽八!」
彼は振り返ることなく、私の前を走り去っていった。