第12章 本当の気持ちを
開会式が終わってから、私はすぐに山岳リザルトのある場所へと向かうことにした。
(なんとかして良い場所がとれるといいけど)
東堂の勇姿を見届けたい。誰よりも早く来てくれる、そう約束したから。
「宮坂さん!!」
聞き慣れた声に振り返ると、目の前は箱根学園のユニフォームでいっぱいだった。
「!?」
背中に腕が回されていて、そっと額に柔らかいものが触れる。
腕から解放されて恐る恐る視線を上に向けると、そこには少し頬の赤い東堂の姿だった。
「と、東堂、今、私の額に」
「い、言うな!!」
「はぁっ!?」
東堂はピッと私を指さす。
「これは俺なりに自分を落ち着けるために必要な行為だった!」
「え、あ」
「という訳で、俺はもう行く! ちゃんと山岳リザルトのところで待っているのだぞ!!」
そういってさっさといなくなってしまった東堂。どこから出てきたのかもわからないし、あの行為の意味も……。
(にしても、台風のように去って行ったなぁ)
私は東堂に口づけられた額を片手で押さえながら、東堂が走り去っていった方へと視線をやる。
「……頑張れ」
山岳リザルトのところまでたどり着くと、もうそこには大勢の人が待っていた。
リザルトラインの少し下の方では箱根学園の応援団部もスタンバイしている。地元なだけあって、うちの生徒の数も多い。東堂が喜びそうだな、なんて思ってみたり。
「にしても、可哀想だよなぁ総北。落車だってよ」
近くにいる男の人が話す。
(総北って、確か巻島さんのチームだよね……? 東堂がいつも勝負したいって望んでいた巻島さんの)
落車したのは巻島さん? いや、彼はそんなことに巻き込まれたりしない。でも、こんな序盤にチームの一人を欠いて勝負できるものなのだろうか? 私は自転車競技に関しては全くの素人だからわからない。
(私は箱根学園の生徒なんだけど。東堂のモチベーション的なものを考えると、総北の心配をしちゃうな)
東堂だって3年だ。最後の大会になるし、巻島さんがたとえ不在でも頑張るだろう。
(でも、彼には気持ちよく走ってほしかった)
私にできるのは、ここで彼を待つだけだ。
そう、待つだけ……。