第12章 本当の気持ちを
私の予想は的中したみたいで、黄色のユニフォームをまとった巻島さんの姿が目に入った。
(でも、ここで声かけてもまずいかな)
何やら黒髪の美青年と話し込んでいる様子だし……。あまり試合前のピリピリした時に声をかけるものでもない気もしてきた。
(そう考えると、翔くんには悪いことしたな)
巻島さんに声をかけることをあきらめ、クルリと踵を返した瞬間、
「ちょっと待つっショ!!」
「!」
振り返ると、巻島さんがすぐ後ろに。
「わざわざここまで来て挨拶しないで帰るなんて、寂しいことするなよ」
「試合前のピリピリした時間なので、声をかけるのが戸惑われたんですよ」
「気にすんな。俺も知り合いに会えて少し嬉しいしな」
巻島さんと私はどちらともなく笑いあう。
そんな様子を巻島さんの隣で見ている美青年……。切れ長の目に黒髪、巻島さんと同じユニフォームを身に纏っている。
「この人は?」
青年の問いに、巻島さんは私のことを紹介する。
「以前、お見合いをした経験があってな。箱根学園生徒会長をつとめる宮坂葵さんだ」
「……宮坂……って、もしかしていずれ俺と見合いをするって言う……?」
彼の言葉に耳を疑う。
「え、それってどういう……」
「俺の名前は今泉俊輔と言います」
その名前には聞き覚えがあった。私のお見合い相手の名前……巻島さんと今泉さんだといっていた覚えがある。
「ま、まさかこのような場所でお会いできるとは」
(気まずい!)
こっちはお見合いをするつもりがないし。でも、まだそのことを父に伝えてはいないからどうしようもない。
「なら、ここで会えてよかったです。宮坂さん、俺はお見合いする気ないんで」
今泉さんはまっすぐな瞳で私を見つめてきた。
「俺は今、ロードにすべて懸けてますから。もし、お見合いの席が設けられたとしても、俺にはその気はないです。すみません」
「いや、それを聞いて安心しました。やっぱり、この歳でお見合いなんて早いですもんね!」
私の笑顔を見ると、今泉さんは安心したように表情を緩めてから、ぺこりと一礼した。
「んじゃ、俺らもそろそろ行くっショ」
「ええ、健闘を祈ります」
「じゃあな」
巻島さんと今泉さんのいる総北……なぜだか、強敵になる、そんな気がした。