第12章 本当の気持ちを
インターハイ当日、私は開会式も見たかったので早めに会場へと来ていた。
(ここにいる人がみんな、自転車乗りの人なんだ!)
誰もが体にぴったりとフィットする自転車競技特有のユニフォームを身にまとい、細身の自転車を引いている。
あまりキョロキョロとしていると不審に思われそうだから、なんとか平静を保とうとするけれど、やはり平静は保てそうにない。だって、今日は東堂の本気をみれる日。楽しみでしかない。
そんなことを思っていると、誰かにぶつかってしまった。
「あ、すみません!」
「どこ見とるん、君ィ」
随分と背が高い人にぶつかってしまったらしく、遠慮がちに見上げると、光のない黒目に歯並びのよい前歯。ユニフォームには「京都」の文字が。
「……」
彼は私のことをじっと見る。私も彼に見覚えがあって……。
「もしかして、翔くん?」
私の問いに、彼は明らかに目をそらす。
「やっぱり!」
「……葵やな」
短い間だけど私が京都にいたとき、病院で会っていた少年……御堂筋翔くんだ。
「自転車、まだ乗ってたんだね」
「当たり前や」
「まさか、こんなところで会うなんて思わなかった!」
「それはこっちの台詞や」
「大きくなったね! 立派になった!」
「母親面するな、気持ち悪い」
素直じゃないところは昔と全く変わらない。でも、あえてすごくうれしい。
「今、どこの高校かよっとるん」
「箱根学園だよ!」
「……箱学、ぶっ潰すからなァ」
「望むところだよ。翔くんも頑張ってね!」
「君、アホちゃうん? ぶっ潰す言うた相手に向かって頑張れとか、キモすぎや」
とか言いつつ、口元は笑っている翔くん。本当に素直じゃないんだから。
(でも、ますます楽しみになってきた!)
翔くんと別れてから、ふと思い出す。
(巻島さんも確か、自転車競技やってるんだよね。……千葉県だから)
彼にも逢えたらな、なんて思いながら、また私は会場を散策することにした。