第11章 女同士の
私は今、「いじめ」という状況にあっている。それは自分でもわかっていることだ。
(でも、それを人に言うなんて)
いじめを受けたら誰かに相談して方がいい、なんてよく言うものだけど、実際はそううまくもいかない。もし、この学校でいじめが起きていることが分かって、自転車競技部の人達に迷惑がかかったら? 学校としての評判が落ちてしまったら?
(会長の私にそんなことできるはずがない)
我慢、我慢だ私。
小さいころ、石垣君が口癖のようにそう言ってたっけな。今なら君の言っていることが理解できる。
そんなことを考えていると、もう今日の授業は終わっていたらしい。授業内容を全く覚えていない……それほどまでに私はボーっとしてたのだろうか。
「……ハァ」
小さくため息をついて席を立ち、生徒会室へと続く廊下を歩いているその時だった。
「おい」
無愛想な声が聞こえ、私はなるべく平然を装って振り返る。
「何? 荒北」
荒北はいつにもまして険しい顔をしている。ただでさえ目つきが悪いんだから、そんな顔しちゃダメでしょ。
「そうやって黙ってる気かよ」
「何のこと」
「とぼけんな!」
荒北は私の手首を強くつかみ、ひねりあげる。
「痛ッ! 何するんだよ! そんなに痛くしなくたっていいでしょ!」
「オメーが本当のことを言わねーからだろ! いいから黙ってついて来い!」
「はぁ!?」
荒北に半ば強引に空き教室に連れて行かれる。その際も荒北は私の手首を強くつかんだままだった。
私と荒北はそれぞれ机に腰かけ、向き合う。
「で、話って?」
私の態度に荒北は舌打ちをする。
「その上履き、何で新しくしたんだよ」
「だから、ちょっとボロくなったから……いや、もういいか」
荒北に嘘は通じない。初めて私と荒北が出会ったとき、荒北の嘘が私に通じなかった時のように、きっと私の嘘は荒北に通じはしない。
「自転車競技部のみんなと、仲良くなれてさ」
真実を話すのは少し怖い。
「私は嬉しかったけど、周りはそれをよく思わないみたいで」
これを言ったところで、荒北はどうするんだろう。
「結構、いろんな嫌がらせを受けてきて……ッ」
次の瞬間、私の体がすっぽりと荒北の両腕に収まっていた。
「……荒北?」
「言えんじゃねぇか、バァカ。おせーよ」