第10章 我らの黄金週間
さて、お見合いの当日がやってきてしまった。
(変、じゃないよね……)
正装に身を包み、東堂庵の前に立つ。まさかこの場所でお見合いをすることになるとは思わなかった……。
(それに、父に会うのも久々だな)
直接会うのはここに引っ越す前以来かな。巻島さんに会うことより父に会うことの方が緊張してしまう。
「葵」
何年ぶりだろう。この声を電話越しでなく聞くのは。
「父さん……」
髪は白髪まじりになり、シワも増えている。
「最初は向こうの父親も含め、4人で軽く挨拶を済ませたら、お前と巻島さんの息子さんの2人にする。お前の婿候補の1人なんだから、しっかりと話をしておきなさい」
「……はい」
結局父との会話はそれだけで、お見合いが始まった。
東堂庵で1番値段の高い部屋を借り、巻島さんと向き合う。
玉虫色の長い髪の毛に細長い手足、透き通るような白い肌。口元のホクロがセクシーな人だ。
「……で、こちらが愚息であります……」
「……はい、このような機会を設けていただき……」
互いの父親同士の堅苦しい挨拶が済んでから、私と巻島さんはこの部屋で二人きりになった。
(どうしよう)
「「あのー」」
巻島さんと声が重なり、思わず巻島さんの目を見る。
「あ、そっちからでいいっショ」
「あ、はい……。先ほど父から聞いたかと思いますが、宮坂葵と申します。今日はよろしくお願いします」
「俺は巻島裕介。正直親もいないことだし、軽くお喋りしようぜ。俺たち同学年ショ?」
「あ、そ、そうだね! うん!」
見た目は少し怖そうだったけど、良い人なのかも!
「巻島さんは学校で部活とかやってるの?」
「自転車競技部」
「!」
その言葉に箱根学園自転車競技部のみんなの顔が思い浮かぶ。
「私の友人も! 自転車に乗るんです」
「東堂ッショ?」
「えええ! お知り合いなんですか?! 巻島さん千葉県に住んでるのに?!」
「大会で知り合ったっショ。東堂の話、色々してやろうか?」
「是非!」
二人のお見合いにもかかわらず、私と巻島さんは東堂の話題で盛り上がってしまうのであった……。