第8章 3年の春
四月ももう最後。ゴールデンウィーク中、縁談相手の巻島さんと会うことが決まった。
「……はぁ」
なぜか気持ちが晴れなくて、私は昼休み、生徒会室の鍵を閉めてウサギの飼育小屋まで足を運んだ。
「……宮坂さん?」
「新開君」
飼育小屋の前に立っていたのは新開君だった。昼休みまでウサギの面倒をみていたなんて。
「珍しいね、生徒会室は閉めてきたのかい?」
「うん。なんか元気出なくて」
「そりゃ困ったな」
「え?」
「宮坂さんが元気じゃないと、俺も元気じゃなくなっちまう」
新開君はそう微笑んでから私の頭に手を置く。
「なんか困ったことがあったら聞くぜ?」
新開君といると落ち着く。だからこそ、彼には何か相談したくなってしまうんだ。
「正直馬鹿馬鹿しい悩みだと思っているんだけど、聞いてくれる?」
「おう、勿論」
「ゴールデンウィーク中にお見合いみたいなことするんだよ」
「……え」
新開君の口からエナジーバーが落下する。
「父の会社の関係なんだけどさ。好きな人がいるから困るとかじゃないんだけど、お見合いはやだなって」
「そりゃそうだろ! おめさんはまだまだこれから出会いがあるし、いくらなんでも早すぎだって」
「好きな人がいるなら断る理由にもなったんだろうけどね。あ、でも好きな人がいても私はこの縁談は受け入れてたか」
父に迷惑をかけるわけにはいかないし。
「縁談なんてまだ早いだろ」
新開君はそう言い放ち、そっと私を抱きしめてきた!
「し、新開君?!」
「宮坂さんはさ、もう少し自分を出してみてもいいんじゃないかな。遠慮しないで」
「自分を……?」
「俺になら甘えてもいいんだぜ?」
新開君との距離が近い……。
新開君は私の首元に顔を埋めてくる。これじゃあ、はたから見たら恋人同士みたいじゃないか。
「新開君、周りの人に勘違いされるよ」
「おめさんなら構わねぇ。ウサ吉の小屋を作ってくれた時から、俺の中でおめさんは1番評価高かったんだ」
「そりゃどーも」
でも、なんだろう。少しくらいわがまま言ってもいいかな。縁談なんて早すぎだって。
(もしかしたら、私はこの学校で好きな人ができるかもしれないのに)