第8章 3年の春
なぜだか真波君と手を繋いだまま生徒会室に戻った。
「荒北ァ、この子が自転車競技部に興味あるってさ」
そう言って真波君を荒北の前に立たせると、荒北は何故だかこめかみをヒクつかせる。
「……なんだその手はァ」
しかも、荒北だけでなく東堂や新開君も。
「ならんね、その手を離すのだ」
「宮坂さんからいったん離れてくれないか? 1年生」
こんな攻撃的なみんなは初めて見たかもしれない。
「真波君、とりあえず私は仕事するから手を……」
「……仕方ないですね」
真波君は名残惜しそうに私から手を離し、困ったように微笑んだ。
「案内してくれてありがとうございましたー。助かりました」
「真波君の役に立てたのならよかったよ。……みんな、ちゃんと真波君に自転車競技部のこと説明してあげてよね!」
なにやら言い争っている様子もあったけど、真波君は上機嫌で生徒会室を出て行った。
「宮坂さん」
東堂に呼び止められ、私は持っていた書類から視線を移す。
「何?」
「宮坂さんはッ……その、年下趣味、なのか?」
「……ハァ? あ、いや待て……そうかもしれない」
私がそう呟くと東堂は目を見開いて後ずさる。
「同学年は、そういう対象ではないと……?」
「さあ? 私は初恋もまだだしねー。でもまあ、真波君はかわいいなって思う」
「お、俺が可愛くなったら?!「東堂テメェは黙っとけ!」」
東堂の言葉を遮るように荒北が割り込んでくる。なんだみんなして、様子が変じゃないか?
(恋、ね。そういうこと考える歳だもんなぁ。でも、私は縁談があるから好きに恋愛はできないや)
せめて、縁談の相手が素敵な人だったらいいなって思うよ。
父が準備した縁談は2件。二人とも千葉県住みらしい。
今泉俊輔
巻島裕介
両家ともに父の会社と関係を持っていて、これからも強化していきたいと父は言っていた。おそらく、ゴールデンウィーク中にはどちらかと顔合わせをするだろう。
「……私は……」