第7章 東堂庵の奇跡
京都に引っ越して、私もようやく仲の良い友達もできた。
「宮坂! ちょい待ちぃや!」
『なぁに、石垣君?』
「今度の休み、一緒に遊ばへんか?」
石垣光太郎君、特に彼は私に優しかったなぁ。
『その日は家族で出かけなあかんの! ごめんな?』
「お、おぉ……」
元々父の仕事の関係で京都に引っ越していた。父は会社の代表取締役社長まで地位を上り詰め、多忙を極めていた。そんな中、ようやく家族で出かけられる日ができたんだ。石垣君には悪いけど、この日だけは譲れないんだ。
でも、ひょんなことで家族で言い争いになって……。
「すまんな、午後から仕事が入ってしまった」
『なんでよ?! 今日1日あそべるんじゃなかったの?!』
「こら葵! 文句言っちゃダメよ。お父さんだって忙しいんだから」
「後で兄ちゃんと遊ぼう? な?」
車内でこんな言い争いをしていた。今思えば、私はなんてワガママな子だったんだろうって思うよ。
「?! みんな伏せろッ」
突然父の声が聞こえたと思ったら、車内が激しく揺れる。
「葵ッ」
咄嗟に兄は私の体を抱きしめ、伏せる。轟音と衝撃が幼かった私の体に襲いかかり、私は意識を手放したのだった。
そっと目を開けると、白くなった兄の腕が見える。
もはや原型をとどめていない車内と、父のものと思われるうめき声。
『?』
何が起こったのか理解できなかった。けど、触れている兄の体が一切動かない。
『イヤッ……』
私たち家族が乗っていた車は、大型トラックに潰されたのだった。運転していた男は違法薬物を使用していたという話だけど、その男ももうこの世にはいないという。
母は死に、兄は意識不明の重体。父は体の数カ所を骨折し、私は奇跡的に軽傷で済んでいた。
『どうして私は、最後の最後までワガママしか言えなかったんだろう……!』
嘆いても母は帰ってこない。兄は目を覚まさない。
『私、良い子になるから……ちゃんと、良い子になるからッ……』
兄が目を覚ますように毎日病院に通い続けたけど、結局兄も息をひきとった。
「もう、この病院には来ないん?」
病院で会った少年に問われる。
『うん……もう、来る意味なくなってしもたから』
せめて少年の縁者は無事であってほしいと思った。