第7章 東堂庵の奇跡
生徒会の仕事を早く終わらせ、駐輪場へと足を運ぶ。
(東堂庵でお世話になっている間は、なるべく早く帰った方がいいからね)
東堂の自転車に手をかけた瞬間に思い出される、お見合いの話。
(父が組んでくださったんだ、悩むことなんてないでしょう)
「宮坂さん」
なんでこの男はここにいるんだ。
「東堂……」
東堂は怪訝そうに眉をひそめている。
「疑問に思っていたのだが、宮坂さんは今日のお昼に父親と連絡をとっていただろう?」
東堂がこの時間にここにいることの方が疑問だよ……とは言わない。
「そうだけど」
「先日のことのあらましを父上に伝えればよかったのではないか? あ、決してうちを出て行って欲しいとかそういう訳ではなく、その方が宮坂さんにとって良いのではないかと思ったのだ!」
東堂は嫌なところに気がつくなぁ。
「……父には迷惑をかけたくなかった。あ、いや……東堂庵になら迷惑をかけていいという訳じゃなくて」
そこまで言ってから、不意にこみ上げてきた涙を指で拭う。
そんな私をみた東堂は目を見開いてオロオロとする。
「す、すまなかった……! 泣かすつもりはなかったのだ! その……」
「東堂庵にお世話になっておいて言う台詞ではないけど、……東堂には関係ないことだから気にしないで!」
私は自転車にまたがり、東堂から逃げるように学校を去った。
東堂庵に着いてから、私は心のうちにあるモヤモヤを払うべく、無心で働いた。
そして、気づけば本日分の仕事が終わっていた。
「葵ちゃんお疲れ様ー! もう休んで良いわよー!」
その言葉を受け、私は自室に戻った……はずなんだけど。
「あっ」
間違えて隣の部屋を開けてしまったみたい。部屋の中は男の子の部屋らしかった。
(もしかして、東堂の自室だったのか)
あまり見ているのも申し訳ない気がして、そっとドアを閉めようとした時……私の視界にある物が入ってきた。
「……私?」
勉強机の上に置かれた1つの写真立て。
そこには東堂一家と私、そして両親と兄が映り込んでいた……。