第7章 東堂庵の奇跡
確かに東堂はモテる。最近は学校で東堂を目撃するたびに視界に映る女子女子女子女子女子……。
「あーっ! 集中できないなこのォ!」
昼休みの生徒会の仕事もはかどらない。ありえない量の誤字脱字、集中力の低下。
(それもこれも、東堂が生徒会室から消えたからだ)
前まではうるさく感じられた生徒会室も、東堂がいなくなるだけで静かな空間になった。生徒会室に響くのはパソコンのキーボードを打つ音だけ。
(変なの。今まではこの静けさが当たり前だったのになぁ)
いつの間に私はあの世話好きな東堂に依存してたんだろ。私自身が世話焼きな癖してね。
「あー、自分が気持ち悪っ」
「宮坂さんは気持ち悪くなどないぞ?」
(えっ)
「んなぁ?! と、東堂いつの間にいたのさ?!」
気がつけば私の背後に立っていた東堂。本人は平然としてるけど!
「さっきからいた! 宮坂さんの様子がおかしいから声をかけたのだ!」
「……そっかぁ」
私は小さく溜息をつき、東堂に向き合う。
「む? どうした、元気がないようだが」
「……東堂ってさ、ウザいくらいに世話焼きだよね」
「ウザくはないな?!」
「今日は何で生徒会室来たの」
なぜだか辛辣な物言いになってしまう私。
「いつも通り宮坂さんを手伝いに来た! 最近は仕事が少ないかもしれんが、放っておくと宮坂さんは昼飯をロクに食べないからな」
(そういうところが世話焼きなんだって……!)
私が東堂にそう言おうと口を開きかけた時、私の携帯が鳴る。
「あ、失礼」
電話に出ようも思って画面を見ると、父の名前があった。
「もしもし? お父さん?」
『葵、久しぶりだな。その……元気にしているか?』
「元気です。いつも仕送りありがとうございます」
『…….やはり昔のようには話してくれないか』
「努力はしているのですが、癖みたいなものでして」
『お前の人生を狂わせたのはこの私だから。不自由な暮らしはさせない……。良い縁談の話が来ているんだ、まだお前は若いけど良いところのお相手だから』
「……はい、父さん」
しばらく父と話してから通話を切った。
「東堂! そろそろ昼休み終わるから教室戻ろう!」
私は笑顔でそう言ったつもりだったんだけど、ちゃんと笑えてたかな。