第7章 東堂庵の奇跡
「……とまあ、ひったくりに遭ったところを東堂のお母様に助けていただき、今は東堂庵から学校に通ってるってこと。ほんと、ご家族にはお世話になっております」
簡単な経緯を説明してから東堂に頭を下げる。
「いや、そんなに頭を下げることはないだろう? 宮坂さんは一応従業員としているのだから。しかし……」
「しかし?」
「災難だったな。俺に何か手伝えることがあれば言ってくれ」
そう言って私の手を取り、まっすぐに見つめてくる東堂。その瞳は憂いを帯びており、心からの心配の色がうかがえる。
「東堂庵に泊めてもらってるだけありがたいよ。自転車まで借りちゃったし」
『あっ! 東堂くーん!』『見て! 東堂様よ!』
私の言葉は女の子たちの言葉にかき消され、東堂はあっという間に彼女達にさらわれていってしまった。
その姿をただ呆然と見ていると、私の肩にだらんと腕がのしかかる。
「あいつ、最近前にも増してモテんだヨ」
「下まつ……荒北!」
「てめぇもっぺん言ってみろゴラァ!」
なんだか荒北と絡むのも久々な気がする。相変わらず目をひん剥いて歯茎丸出しで喋っててブサイクだな!
(けど、荒北のそこが好きなんだよね)
「てか、東堂『様』って何よ」
「東堂ファンクラブってのがあるらしいぜ。女ってのは何考えてんのかわかんねーからこえーよ」
「……ファンクラブ、か」
確かに東堂はイケメンだし、面白いし、部活でも活躍している。モテて当然なのはわかっている。
「なんだか遠くなったみたいだね、東堂」
「そうかァ? ……けどまぁ、気をつけたほうが良いんじゃねぇの?」
「……どういう意味?」
「男が絡むと女はどうなるかわかんねぇからな。いくらお前が立派な生徒会長でも、ンなもん奴等には関係ねぇだろうし」
この先の話を聞きたくない。荒北の言いたいことはもうわかったから。
「東堂と絡むのは程々にしておいたほうが良いんじゃなァイ?」
てか、荒北にしてはよく気がつくものだな。