第6章 2度目の文化祭
「大丈夫ですか? なんか、顔色悪いですよ」
気がつけば、心配そうな顔をした真波君が私の頬に手を伸ばしている。
「す、すみません、少し昔のことを思い出していまして」
「ていうか、何で敬語なんですか? 会長さんの方が年上なのに」
「お客様相手ですから、敬語は当然ですよ!」
「あっははー! 変なのー!」
なんで笑うんだ? え? 年下相手なら立場関係なしにタメ口で話すものなのか?
「と、とりあえず真波君。うちの自転車競技部は強いですし、メンバーも個性豊かで面白い人達がいっぱいですよ。……きっと、君に合うと思うな」
真波君は私の瞳をじっと見返し、へらっと笑う。
「じゃあ、待っててください。俺、ここに来ますから」
「はい! 入学式の舞台上から、君の姿を探すね」
真波君と別れてから、すぐに売り場に戻る。
「ごめん! 離れすぎて!」
ピークも過ぎて、誰もお客さんのいない飲み物売り場。つまり、私はピーク時に席を外してしまったわけだ。
「問題ない! この美形が見事なまでに売りさばいたからな!」
「あたしも結構この仕事楽しんでるし!」
「おめさんこそ、わざわざお釣り届けに行ってご苦労さん」
温かい返事に思わず口元が緩んでしまう。
「ピークも過ぎたし、みんなお店回ってきていいよ! お昼時になったらまた呼ぶから!」
「そうか……。んじゃ、お言葉に甘えてちょっとお店回ってくるよ。天宮さんも行くかい?」
「じゃあ、そうするね! 美味しそうなものがあったら買ってくる!」
新開君と天宮さんを見送った後、隣に立ったままの東堂君に目をやる。
「東堂君は行かなくていいの?」
「ここで3人抜けるよりも2人でローテーションを組んだ方が賢いだろう?」
「まあ、確かに」
「……宮坂さんは後で俺と一緒に回ろう」
東堂君はそれだけ言って私から視線をそらしてしまう。
(でも、この静寂も居心地が良く感じてしまうのは何でだろう)
荒北といる時とは違う安心感。東堂君とはずっと昔から友達だったような、そんな不思議な感覚に陥ってしまうんだ。
(向こうが私をどう思ってるかは知らないけどね)