第6章 2度目の文化祭
「あー! ほんとだ! ありがとうございますー」
少年はニコニコしながら400円を受け取る。
「それでは、私はここで。文化祭楽しんでくださいね」
「待って!」
少年に手を掴まれ、動くに動けない状況となる。
「えっと……?」
「おねーさん、生徒会長でしょ? この学校の」
「はい、そうですけど」
「少し話を聞かせて欲しいんです」
少年は仔犬のような瞳で私を見つめる。
(でも、飲み物の販売も人手が必要なわけだし……)
「あまり長いお時間お話はできませんが、それでもよろしければこの学校の説明をしますよ」
「ありがとうございます! 俺は真波山岳っていいます。この学校を受験しようかと思ってるんです」
となると、真波君は中学3年生か。
「本当ですか? ありがとうございます! 真波君がこの学校に来たら、1年間一緒に過ごせますね」
「会長さん、3年生じゃないんですか?」
「諸事情がありまして、私はまだ2年生なんですよ」
「やったー! じゃあ俺、先輩に会うために頑張りますね」
真波君の笑顔に若干押されそうになる。
(この子、天然たらしだ!! 東堂君とは違って、自然な言葉で女性をたらしこむ!)
「まぁでも、俺はこの学校の自転車競技部に入りたいんですよ」
「そうなんですか? 確かにうちの自転車競技部は強いですけど」
真波君は大きく息を吐き、私の手をそっと離す。
「みんな速いんだろうなぁって。毎日自分の限界と戦って、苦しんで、もうやめたいって思うくらいに自転車に打ち込んでいるんだろうなぁって。……そんな人達と一緒に戦えたら、生きてるって感じがすると思うんです」
真波君の横顔が綺麗だ。彼の瞳に曇りは一点もない。
「生きてる、感じ……?」
「そう。先輩も、今自分は生きてるんだ! って思える時……あります?」
(生きてる、って感じる時)
『パパ! ママは〜?』
『ママはもういないんだよ、葵』
『嫌だ! ママッ! ママッ! ママぁ……』
『何回言えばわかるんだ! ママは死んだんだ!!』
私はずっと前から知っている。
生と死を。
越えられない一線を。
だからこそ、わかるんだ。
「今、私は生きている……」