第5章 2年〜夏休み〜
久しぶりに会う福富君の表情は、どこか暗かった。
「インターハイお疲れ様、そしておめでとう。箱学の生徒会長としても、宮坂葵個人としても福富君をお祝いしたかった」
私の言葉に福富君は少し顔を歪ませる。
「……福富君?」
「俺はッ……」
そこまで言いかけ、福富君は口をつぐんだ。
(何か、事情があるのかな)
勝利を喜べない、何か事情が……。
「福富君さ、何かあったでしょ」
「……」
「素直に勝利を喜べない何かが。でも、箱学の自転車競技部は強い。長い歴史もある。つまり、王者の名を背負っているんでしょう? 周りのものを全て蹴散らして、貴方はその上に立ったんだ」
「そんな君が満足できないのは、君自身の弱さだ。王者として勝利して、最高の景色が見たいなら強くなれ!」
私の言葉のあと、しばらくの沈黙が辺りを包む。
(やってしまったぁぁぁぁ!!)
私は両手で顔を覆い、その場にうずくまる。
(なんで私はこんなにも説教癖があるのかな?! 部外者の癖に何なのって話じゃん!)
「宮坂……」
頭上で福富君の声がする。ハッと顔を上げると、さっきよりかは幾分表情が和らいでいた。
「ありがとう」
私の説教のようなものが終わってから、しばらくの間は自転車競技部の人と雑談をしていた。
「それでだな、新開のやつがエナジーバーしか食わんのだ! 皆食事バランスが悪すぎてだな!」
東堂君が私に対して愚痴を言う。
「オメェが食事にうるさ過ぎなんだヨ」
荒北が弁当を片手に応戦。新開君は話を流し聞きしながらエナジーバーを貪る。福富君は終始無言。
(私も生徒会室に戻るか)
「おっ、会長じゃん!」
「夏休みも来てんだ!」
近くにいる他の部員からも声をかけられる。最近は活動が実を結んでか、多くの生徒が私を労ってくれる。
「みんなこそお疲れ様! どこも3年が引退したから2年生の出番だ! 頑張れ!」
と声をかけて回る。
「やはり宮坂さんは凄いな」
隣で東堂君が呟く。
「そんなことないよ」
「いや、凄いと思う。働き過ぎなくらいだ……そうだ!」
「?!」
「息抜きのようなものだが、宮坂さんも含めて皆で夏祭りに行かないか?!」