第5章 想い
道「そうだ、ひとついいか?」
道明寺さんがポツリと呟く。
陽「何ですか?」
道「お前の笑顔見せてくれよ。」
陽「え?」
道「いつでも見せてやるっていってただろ。
見せてくれよ。」
陽「えーと、さっきあなたは私をかなりビビらせて殴りましたよね。
その私に今あなたのために笑えとおっしゃる?」
道「昨日、いつでも笑顔を見せるって言ったじゃねーかよ。
お前嘘つくのかよ。」
陽「えーと、人には感情というものがありまして。
とてもじゃないけど今の私はあなたに笑えと言われて笑えるほど図太くございません。」
道「いいから笑えって。
俺のために死ぬ気で笑えよ。」
あ、私を困らせて楽しんでる目だ。
なんだこの人は小学生?
私はこんな人に振り回されるのが馬鹿らしくて何だか可笑しくなってきた。
陽「わかりました、精一杯の笑顔をつくってみます。」
道「頼むぜ。」
すうっと深呼吸をする。
陽「道明寺さん、あんたって鬼畜ですね?
でもそんなとこ嫌いじゃないですよ。と。」
ニッコリ
難しかったけど皮肉を込めつつ精一杯の笑顔を作ってみた。
どうしようもなく引きつってたと思うけど。
その笑顔を見て道明寺さんが
「ぶはっ」
と吹き出した。
道「あはははは。いーね、その無理やりな笑顔。
いいもん見せてもらえた。
あー、写メとっとけばよかった。もう一回笑えよ。」
陽「無理に決まってるじゃないですか。」
涙流して笑うとこ?ほんとに自由人なんだね。
まあでも私の笑顔で道明寺さんが笑顔になったということはいいことだよね。
道明寺さんはひとしきり笑った後に、真面目な顔になると、
道「ほんとにありがとな。
心が少し軽くなった気がする。」
と言ってじっと見つめられる。
え?顔が近づいてくる?
頭の後ろを軽く押さえられ私の唇に道明寺さんの唇が触れた?
え?何?この人は何してんの?
パンッ!
唇が離れると同時に、反射的に道明寺さんの頬を平手打ちしてしまった。