第5章 特別
彩矢は、心配そうな顔をする。癒貴は、なんでもない…と首を左右に振るばかりだ。彩矢は、そう…と弱々しく答え、席に座るのだった。
やがて、学校が終わり部活も済ませた癒貴は、暗い夜の中を1人で歩いていた。今、吸血鬼に狙われている癒貴は、1人で行動するのはあまりにも危険だとは分かってはいた。
しかし、皆には迷惑を掛けられないという事で、周りの人には頼っていない。その時、遠くの方からわん、わん!と犬の鳴き声が癒貴の耳に入ってくる。
不思議に思ったのか、その方向を見ると一匹の犬が癒貴に近寄って来た。その犬は、子犬に見え更にクリクリとした水色の目、黒毛の犬だ。
癒貴の足元で、く~んく~んと甘えるような声をあげる。仕方なく癒貴は、その犬を抱っこすると、犬は癒貴の頬をペロペロと舐める。
その犬の姿は、とても可愛く見えてしまった癒貴だった。すると、更に遠くの方から…。
「二号ー、何処にいるのですかー?」
遠くの方から、この子犬のご主人と思われる声が癒貴の耳に入ってくる。やがて、声は、だんだんと大きくなり癒貴の前で姿を現す。
その人物とは…。
「あれ…?癒貴さん…ですよね?」
そう、吸血鬼の黒子テツヤの姿だった。吸血鬼という事で、癒貴の身体は強張り始める。
「……そ、そうだけど…?」
癒貴は、僅かに震えていたがそれでも黒子に返事をすると…。
「すみません、失礼しますね。」
黒子は、癒貴に謝罪の言葉を出した瞬間、癒貴の左手首を掴み、左の人差し指にかぶりつく。